skycommuの演習発表のレジメ

スカイコミュはある地方大学の日本文学系の学部に所属しています。


今からあげるのは、私が先週初めて作った演習のレジメ。


その演習は唯一、2年の前期でも発表しなければならないのです。


ちなみに、うちの所属する系は、専門の演習が4種類あります。PCでつくって良いのはこの演習だそうです。たぶんに、、、ぢゃなくて、絶対、他の演習のレジメはアップしないでしょう。


だから、レジメを公開するのはこれが最初にして最後になるかも。


まあ、ご堪能ください。


ちなみに、題は天正狂言本の「米かり」の部分です。


ここで公開するにあたって、他台本との比較を、まとめを除き省きました。


ごちゃごちゃといろいろ書いてありますが、私のアイデアというより先生からの指摘を下に作ったと考えてください。


最後に演習での先生からの指摘なども載せました。あわせてご賞味のほどを。



天正狂言本<本文>七十四丁オモテ八行目〜七十五丁オモテ一行目


 <翻字>
米かり
一人出て年とるへきやうなし
とてうとくなおちをもつ物
こひに行 おち出合て 物語
たわらを一ひうこうさうゆうも
こうおんてくるか見くるしとて
こそてをかりて上にかける人
とはゝをちことこたへんとゆふ
帰る道にてねん比の者ひん
せうする酒もりする立舞
過てちこ見んとてこ袖を
たくるすてゝにくるとめ


【梗概】
 米市
毎年目をかけてくれる人からもらう合力米が届かないので、歳の暮に貧苦の男(シテ)がその人を訪ねると、すでに蔵をしめたあとなので、外に出ていた四分の一石入りの米俵を与えられ、さらにその娘から老婆へと小袖を与えられる。保護者は男に俵を背負わせ、その上から小袖を着せかけて、人が尋ねたら「俵藤太のお娘御米市御寮人のお里帰りだ」と答えよという。帰途出会った歳暮廻りの若者たちがその名を聞くと、ぜひお盃が頂戴したいといいだす。男は俵を下ろし、さも女主人に話しかけるように伺いを立てて断るので、若者たちは押し寄せ、乱闘となるが、正体を俵と知って、「お盃を頂かぬか」という男に対して「いやじゃいやじゃ」といって去っていく。男が「これは某の大切な年取り物じゃいやい」といって留める。


【特色】
 和泉流のシテの名は太郎。鷺流では俵をもって逃げる男を若者たちが追い込む。中世庶民の窮迫した歳暮風景を明るくユーモラスに描いた曲。
〔日本古典文学大辞典 岩波書店 より〕


【語釈】 日葡=邦訳日葡辞書 時代別=時代別国語大辞典
     古語大=古語大辞典 日本大=日本国語大辞典

① 米

Yone. ヨネ(米) Come(米)に同じ。米。
日葡

よね〔米〕 こめ。
時代別

よね〔米〕 1、こめ。『名義抄』に「稲米イネノヨネ」とあり、もとは稲に限らず、粟・黍などの他の穀物の実をもいったと思われる。
      2、「米」の文字。また、それを分解すると八十八となるところから、八十八歳。
古語大

よね〔米〕 1、もみがらを取り除いた稲の種子。こめ。
      2、八十八歳。米寿。また、その祝。よねの祝。
日国大

② 年とる

Toxiuo coyuru,1,toru.(年を越ゆる、または、取る)年を越して次の年になる。
日葡

年を取る あらたまって新しい年を迎える。
   時代別

としを取る 1、新しい年を迎える。
      2、年寄りになる。老年になる。
   古語大

としとる〔年取〕年齢を重ねる。新年を迎える。また、老いる。年を取る。
   日国大

③ やう

Yo. ヤゥ(様) 方法、または、様式。
   日葡

やう〔様〕 一、名 ?、そのものとしての内なる事情・実態の具体化されたものとしての、すがた・様子・状況などをいう。
          ?、その態度・様子などにも窺われる、そのものとしての内なるこみいった事情をいう。㋐多く「あり」「なし」の語を伴って、取立てて述べるだけの仔細、わけの意を表わす。㋑多くの「やうなく」の言い方で連用修飾語に用いられ、これといっためんどうなこともなく事が容易に実現するさまを表わす。
          ?、行為を意味する語を連体修飾語に承けて、その内容にふさわしいものとして具体化する、方法・やり方、また、そのありようをいう。
          ?、引用文に前置して、以下の内容を具体的なものとして導くのに用いる。
      二、接尾 ?、体言に付く。㋐いかにもそれらしい具体的なかたち・様子を備えたもの、の意を添える。㋑それがもっともふさわしいとして挙げられる、その類のもの、の意を添える。
           ?、動詞の連用形に付いて、その内容にふさわしいものして具体化する、方法・やり方の意を添える。
時代別

やう〔様〕 一、名 ?、漢語の語義。物事の形状。形姿。事のさま。㋑外から見て目に見えるような、物の姿や形。㋺事態や態度・行為のさま。多分に和文的な用法が成立している。㋩特に、心の内のようす。衷心。覚悟のほど。
          ?、手本として定っていて、従うべき、あるいは選択すべき型。形式。㋑ひな形。また、物における規範的な造り。構造・構成・技法などの型、方式。様式。㋺行為・行動に属する事柄における、定った決り・手順・方式など。㋩文学・美術・芸能などにおける、定った風体や様式。時代・ジャンル・作品・作家などの、共通的類同的な特色をさしていうことが多い。
          ?、外から見える状態の、その内側のさま。事情。わけ。子細。
          ?、ある事柄を実現するための具体的な方法。手だて。これも和文での語義。
          ?、「やう」が、用言・助動詞の連体形や「体言+の」の形による連体成分の修飾を受けるとともに、多くは形容動詞のように「なり」「に」を伴って用いられ、情態言的な意味を表わす。
          ?、そのようなこと。それについての、あるいはそれに類することの委細を含んだうえで、抽象した言い方。婉曲的で和文的な用法。形式名詞性が強い。
          ?、「・・・のやうに」の形で用い、実現・達成が期待されたり意図されたりするような事のさまを表現して、その実現・達成のための行為を情態修飾する形式名詞性の強い、和文的な用法。
      二、接尾 ?、体言に直接、または「など」を介して付き、上接の物事と同じ類の物、よく似ている事、などを表わす。
           ?、「さ」「か」「かく」などの指示語や「異」などの語に付いて、指示される状態を表わす。「いかやう」「かやう」「ことやう」「さやう」などと熟して用いる。
           ?、動詞連用形に付いて、その動作のあり方や実現の方法などを表す。
古語大

よう〔様〕 一、物事のありかた ?、様子。目に見える状態。ありさま。
                ?、外見の形。姿。形状。
                ?、外見にこめられた意味。子細。わけ。事情。道理。
                ?、慣習として決まっているしかた。方式。様式。流儀。
                ?、ある事を実行するための方法。やり方。てだて。手段。
                ?、言う、思うなどの内容、また、そのほかの行為や事柄の実現のしかた。
                ?、同類。一類と考えられるもの。
  二、形容動詞の用法に準じて用いる ?、推量される様子を表す。断言をやわらげていう。
                  ?、その事態そのままの様子、今にもそうなりそうな様子であることを表す。
                  ?、比喩の用法。よく似た事物をあげて、性質や状態を説明する。
                  ?、例示。
     三、形式名詞として用いる ?、言う、思うことの内容。
                  ?、ある行動に対する望ましい方法、形式や目的、期待する達成の状態を示す。
                  ?、地名などを受けて方向を示す。
日国大

④ うとく

Vtocu. ウトク(有徳) Aru,saiuai.(有る、徳) 例、Vtocuni gozaru.(有徳にござる)富裕である。
日葡

うとく〔有徳〕 ?、形容動詞として用いられ、富裕である意を表わす。
        ?、「有徳銭」の略
時代別

うとく〔有徳・有得〕 一、名・形動ナリ 節用集には通常、「有徳・有得」の両形を掲げ、『書言字考』に
                   は「有徳」を挙げるが、江戸時代には一般に「有徳」を用いる。財物が多く裕福なこと。金持ち。
 二、名 「有徳銭の略」。中世、幕末や寺社が都市の特定の大金持ちに課した臨
時徴収の金。
古語大

うとく〔有徳〕 ?、徳行のすぐれていること。また、その人。ゆうとく。
        ?、富み栄えること。また、その人。金持ち。有徳人。
        ?、「うとくせん(有徳銭)」に同じ。
日国大

⑤ 物語

Monogatari. モノガタリ(物語) 談話。
   日葡

ものがたり〔物語〕 ?、人と親しく、事の経緯とか顛末などについてあれこれ話をすること。またその話。
          ?、散文の文学作品の一。昔の出来事などを、叙事的に記したもの。また、その草子。
   時代別

ものがたり〔物語〕 ?、親しく相手と談話すること。
          ?、特に、男女が寝物語をすること。また、男女が親密な中になることを間接的にいう。
          ?、内容に統一性のあるかなりの量の話。ある出来事などについて、首尾やその経過をも含んだ話。
          ?、乳児が、何か話をするかのように、意味のなさない声を出して行う表現行動。
          ?、平安時代に始まる文学作品のジャンルの一つで、作品の内容がある語り手の口から語られてゆく体裁をとって書かれた、虚構の仮名散文作品。
          ?、さまざまな興味深い話、説話の類などを、巧みな話術で語ること。その話芸。
            また、語られる話。
          ?、人形浄瑠璃や時代物の歌舞伎で、主役が回想や述懐を語る局面・演出をいう。
    古語大

ものがたり〔物語〕 ?、(〜する)種々の話題について話すこと。語り合うこと。四方山の話をすること。また、その話。
          ?、(〜する)特に男女が相かたらうこと。男女が契りをかわしたことを婉曲にいう。
          ?、(〜する)幼児が片言やわけのわからないことを言うこと。
          ?、(〜する)特定の事柄について、その一部始終を話すこと。また、その話。特に口承的な伝承、また、それを語ることをいうことがある。
          ?、日本の文学形態の一つ。作者の見聞または創造をもととし、人物・事件について人に語る形で叙述した散文の文学作品。狭義には平安時代の作り物語・歌物語をいい、鎌倉・南北朝時代のその模倣作品を含める。広義には歴史物語、説話物語、軍記物語などもいう。作り物語は、伝奇物語、写実物語などに分ける。ものがたりぶみ。
           ?、浄瑠璃・歌舞伎で、時代物の主役が、過去の事件、思い出、心境の述懐などを物語る部分。また、その演出。
           ?、江戸時代、家々の門に立ち古戦物語などの素読をして金品を乞うた者。
           ?、近代文学で、ノベル(小説)に対し、一貫した筋を持つストーリーという概念にあてた語。また、・・・について述べたもの、の意で、題名に添えられることが多い。
日国大

⑥ さうゆう

Zoyo. ザゥヤゥ(ざうやう) 大きな出費、出費、また、手間。
日葡

ざふよう〔雑用〕 ?、いちいち特に並べあげるまでもない、日常的な、こまごまとした用事。
         ?、いちいち並べあげられない、もろもろの費用。多くの費用、出費、また、手間。
   時代別

ざふよう〔雑用〕 ?、こまごまとした事に要する費用。雑費。
         ?、つまらない用事。俗事。
         ?、特に劇界の通信として、巡業の宿屋、食事、また、その費用をいう。それらの世話をする人もいう。
    古語大

ぞうよう〔雑用〕 ?、種々のこまごました用事。雑多な用事。ざつよう。
         ?、こまごましたものの費用。細かい費用。雑費。造用。ざつよう。ぞうゆう。
         ?、芝居の巡業で、一座の食事、宿泊に関する事柄や費用。また、それを担当する者。
日国大

⑦ おんて

おぶ〔帯ぶ〕 ?、帯を腰に巻いて身に付ける。また、そのように、物を腰のあたりに付けて待つ。
       ?、特に「印を帯ぶ」の言い方で、職印を身につける意、またさらに、その官職に就く意を表わす。
       ?、人や物を背に負ったりして待つ。
       ?、雨・露などを受けて、物の表面にそれを一面につけている、または、それを内に含んでいる状態である。
       ?、事物が、その中にある事態に特有の気配・様子などを感じさせる状態になる。
       ?、多く「〜を帯びて」の言い方で連用修飾語に用いられ、物事を行うにあたって、共通性をもつ他の物事のあり方や行われ方の根本を基本的なよりどころとして、それにならう、または、のっとる意を表わす。
       ?、ある事態に特有の性質・状態などを受けて、関連した他の事態がそれと共通性を持つものとなる。
時代別

おぶ〔帯〕 ?、身につける。主として腰の周辺につけることをいう。
      ?、何かが本体に付随して、その存在のために、本体が本来の状況と若干異なった状況を呈するのをいう。気配・味わいなどを含む。
      ?、任務などを身に受けて待つ。責任を引き受けている。
   古語大

おぶ〔帯・佩〕 ?、身につける。着用する。
        ?、任務などを身に負う。引き受ける。
        ?、細長くまわりに巻きつける。めぐらす。
        ?、ある色、味、様子などを少し含む。
   日国大

⑧ をちこ

Chigo. チゴ(児) まだ頭髪を伸ばして〔剃らないで〕いて、寺院で勉強する子供。
日葡

ちご〔児〕 ?、年端の行かない男の子。少年。
      ?、寺院で預って、学問をさせたり、給仕に使ったりする、俗体のままの少年。
   時代別

ちご〔乳子・児〕 ?、乳飲み子。あかご。
         ?、小児。小童。元服前の少年。
         ?、天台宗真言宗などの格式ある寺院で、学問を教えられながら僧に給仕した、貴族・武家などの少年。中世以降は特に男色の対象とした面が文芸などで扱われ、ちごの似せ絵がもてはやされたり、「ちご物語」と呼ばれる草子などが製作、享受された。
         ?、神仏の憑依者として、社寺の祭礼・法要のときの舞踊や行列に、象徴的に待遇される小童。
         ?、はやぶさ科の鳥名。
   古語大

ちご〔稚児・児〕 ?、ちのみご。赤子。乳児。
         ?、やや成長した子ども。童児。小児。
         ?、寺院や公家、武家などに召し使われた少年。僧の男色の対象となる場合があったところから転じて、一般に男色の対象となる少年をもいう。おちご。
         ?、神社の祭礼・寺院の法楽などの際、天童に扮して、舞ったり行列に加わったり練り歩いたりする童児。おちご。
         ?、鳥「稚児隼(ちごはやぶさ)」の略。
         ?、すりをいう、強盗仲間の隠語。  
日国大

⑨ ねん比

Nengoro. ネンゴロ(懇・念比) 親切、情愛、など。
日葡

ねんごろ〔懇〕 ?、細やかな心づかいをもって丁重に人に接するさまである。
        ?、細心の注意を払って、真摯に事にあたるさまである。
        ?、特に異性に対して、親密な心を交わすさまである。
時代別

ねんごろ〔懇、念比〕 一、形動ナリ ?、まごころを込めてするさま。心尽くしのさま。丁寧で、念入
りなさま。
                  ?、友人などの間柄が親密なさま。親しい。むつまじい。
                  ?、男女の仲がよいさま。
                  ?、明らかなさま。本当。
                  ?、程度のはなはだしいさま。無理やりだ。あながちだ。
          二、名・動サ変 ?、親しくすること。親密。芳情。懇志。
                  ?、特に、男女や念者と若衆が、よい仲になること。
古語大

ねんごろ〔懇〕 一、形動 ?、心をこめて、あるいは心底からするさま。熱心であるさま。親身であるさま。また、手あついさま。
             ?、心が通じ合って、間柄が親密なさま。交情のむつまじいさま。友達として親しいさま。
             ?、明らかなさま。本当。
             ?、程度のはなはだしいさま。無理やりだ。
        二、名  ?、思いをかけること。厚情。親切。
             ?、親密になること。友達として親しくなること。親しく出入りすること。
日国大

⑩ ひんせう

Fenxu. ヘンシュ(偏執) 自分の嫌いな事について悪く言うこと、または、軽んじ侮ること。
日葡

へんしゅ〔偏執〕 ?、自らの考えに頑ななまでに固執して、他人の意見を受入れようとしないこと。
         ?、人の言行などをねたむこと。そうして、ことさらに悪く言うこと。
   時代別

へんし/じふ〔偏執〕 ?、漢語。物事の一面にだけとらわれること。
           ?、他をうらやみそねむこと。
古語大

へんしゅう〔偏執〕 ?、仏語。片寄った執着。一つの考えに固執すること。偏見によって他の意見を受けつけないこと。片意地なこと。へんしつ。へんしゅ。
          ?、他をうらみそねむこと。他をねたましく不愉快に思うこと。へんしつ。へんしゅ。
日国大

⑪ 立舞

たちまひ〔立舞〕 ?、立ち上がって舞を舞うこと。舞を試みること。
         ?、平生の行動や起居。ふるまい。対応。処置。
         ?、諸芸道における進退の処し方。
古語大

たちまい〔立舞〕 ?、立って舞うこと。また、その舞。
         ?、日常の行動。たちいふるまい。
         ?、物事に対応する行為。ふるまい。
         ?、服装のことをいう、関東での盗賊仲間の隠語。
日国大

⑫ たくる

Tacuri,u,utta. タクリ、ル、ッタ(手繰り、る、つた) 引っ張ったり、ぐるぐる巻いたりして取る。また、手から力ずくで奪う、あるいは、取り出す。
日葡

たく・る〔手繰る〕 紐状のものを手もとに巻きとる意から転じて、皮など薄い物を、一方に強くしごくようにして畳んだりむいたりする意、さらにまた、人の手から力任せに物を奪い取る意を表わす。
時代別

たくる 一、動ラ四 ?、他人の所有物や物の表面に付着している物を、力ずくで取る。はぎ取る。奪い取る。ひったくる。
          ?、思いのままに扱う。
    二、動ラ下二 皮などが取れる。はがれる。
   古語大

たくる ?、自分のものとして引き寄せる。ひっぱり取る。奪って自分のものにする。
    ?、自分のほしいままに扱う。
    ?、衣服の裾や袖などをまくりあげる。
    ?、だます。ごまかす。手をぬく。
    ?、動詞の連用形に付いて補助動詞のように用い、荒々しく事を行う、限度をこえて強引にする
意を表す。「塗りたくる」など。
日国大


【波線部イ、ホの かり について】
波線部イ、ホの かり では判別できないが、天正狂言本において、通常四段活用(かる)は上一段活用(かりる)と表記される。以下、天正狂言本における(かる)の表記例。


「のふのたふくかりにやる。さておちの所よりかりてくる。」[鬼松風]
「地さう房と名のツて宿かりる 笠はかりの宿をかりる(略)一夜の宿をかりにける」[地さう坊]
「たんなへ行て馬かりよとゆふ(略)さて段にかりる(略)段なへ馬かりにやる」[馬かりさとう]
「のふのたふくかりにやる おちの所よりかりて来る」[竹松]
「ざとう一人出て宿かりる」[たらしざう]
「さとう一人出て宿かりる」[犬引さとう]
「段なにともをかりる」[せいたう]
「まとの下殿よりぬしつけをかりた」[なまくさ物]


これは中世末期の東国方言の反映であると考えられ、天正狂言記の出自を考える上で非常な参考となる。
(引用参考 天正狂言本全釈 及び 天正狂言本本文・総索引・研究)


【波線部ロ、ハ、へについて】


ロ 正しくは「いっぺう」 o音をu音で表記した母音交替変化語。
ハ 正しくは「ざふよう」 o音をu音で表記した母音交替変化語。
へ 正しくは「へんしふ」 u音をo音で表記した母音交替変化語。


天正狂言本には母音交換の例が極めて多く、中でもウ段とオ段の交替が著しい。
(引用参考 天正狂言本本文・総索引・研究)


【波線部二の おんて について】


金井清光氏によると
「おんて」は「負ひて」の促音便で「負って」となり、その促音表記に「ん」を用いたもの(東国語的発音とされる)か「負ひて」のウ音便「負うて」を「おんて」と表記したもの(西国語的発音)。天正狂言記における強い東国方言の影響を考えると前者か。
であるという。


しかし、他にある「おんて」が「おって」と表記される例は無く、「負ふ」が確定的に使われている例も無い。また「負ふ」は西国地方に顕著な言葉である。したがって、天正狂言記の東国的性格を考慮し、東国地方に顕著な言葉「帯ぶ」をあてたい。ここではバ行四段活用「帯ぶ」が「て」に接続するとき撥音便化を起こし「おんて」になったとする。

 
以下参考資料に、ものを背負う表現の分布をあげる。「おぶ」という言葉が東国に分布し、「おう」という言葉が西国に分布している様子がよく分かる。

(参考資料 日本方言大辞典)


【口語訳】
一人、登場する。年を越える方法が無いといって、金持ちの伯父をもっているので、ものをねだりに行く。伯父、出迎えて話をする。米俵を一俵、ねだる。雑費もねだる。(米俵を)背負って行くのがみっともないといって、衣類を借りて、(米俵の)上にかける。人が(それ何と)問わば、おちごさんと答えようと言う。帰り道で、親しくしている者が(それを)ねたむ。酒盛りをする。立舞がすんで、(ねん比の者は)おちごさんを見ようと言って衣類を引っ張って取る。(シテは米俵を)捨てて逃げる。留。


【他台本との比較】
大蔵虎明本 米市   祝本 なし
狂言記拾遺 米市   狂言六義 米市


天正狂言記では、うとくなもの=おぢ だが他台本では特別な明記は無い。
天正狂言記では、俵を隠すために小袖をもらったと読めるが、他台本では支援者の娘から男の女共へ、生活の必要性から小袖をもらう。
天正狂言記では、俵を別のものに見せようと考えたのは物を乞う男だが、他台本では支援者となっている。
天正狂言記では、俵の見立てられたもの羨ましがられるものは男色目的の少年だが、他台本では女となっている。これから、男色の風習が廃れていった様子が読み取れる。
天正狂言記では、ねん比の者に羨ましがられるが、他台本では歳暮廻りの若者となっている。
天正狂言記では、男は恥ずかしさから俵を置いてその場から逃げるが、他台本では特に逃げることはない。


【引用参考文献】
天正狂言本 本文・総索引・研究」 内山弘 H10 笠間書院
天正狂言本全釈」 金井清光 H1 風間書房
「日本古典全書 狂言集 下」 古川久校注 S31 朝日新聞社
「大蔵虎明本 狂言集の研究 本文篇下」 池田廣司 北原保雄 S58 表現社
狂言記拾遺の研究」 北原保雄 吉見孝夫 S62 勉誠社
狂言六義全注」 北原保雄 小林賢次 H13 勉誠社
「日本方言大辞典」 1989 小学館


【教員からの指摘】 
 貧乏な男がもらった4分の1石とはおよそ45リットル。


 有徳の元の意は「道徳のある人」。転じて「金持ち」


 『帯ぶについて』
辞書に載っている「帯ぶ」は上二段活用。ところが天正狂言本の「帯ぶ」は四段活用。方言によって活用がかわることがある。天正狂言本の「帯ぶ」が四段であるのは東国方言の影響か。


 波線部 へ の「へんしふ」はu音をo音で表記した母音交替変化語であるのみならず、エとイの母音交替でもある。


 「米かり」という題から「米市」という題に変化している。女の名を連想させる題名。


 男色は戦国時代に流行。上杉謙信が男色家として有名。対して豊臣秀吉は女好きとして有名。江戸時代にかけて廃れる。


おまけ【「天正狂言本」について】
 天正狂言
 一冊。狂言。現存最古の狂言台本。但し通常の台本のようにせりふを正確に書き記したものではなく、筋書を要点的に記している。「天正六年(1578)七月吉日」という奥書のあるところから「天正狂言本」と呼ばれている。正確な執筆年代や執筆事情、伝承の経路などは不明であるが、中世末期頃のある狂言師の演技覚え書きともいうべきものであるらしい。
 【内容】
 103番(一番重複)の狂言の筋書を記しており、他に目次の余白の書き込みによって、更に四十余番の曲名と狂言囃子舞の名を知ることが出来る。
 【意義】
 もちろん、『天正狂言本』だけに記載されていて、後世に伝わらなかった曲も二十番程ある。「湯立」「苔松」「近衛殿の申状」「面研」「法華念仏」等がそれで、これらは中世の世相や民俗・言語に密着し過ぎたために、後世の人の鑑賞に耐えられなくなったり、趣向が複雑過ぎて、狂言の特徴である簡潔な手法に合わなくなったり、内容が卑猥に過ぎたりして、近世に入って廃曲となる運命を辿った。しかしこれらが廃曲となった理由や背景を考えることは、そのまま、さかのぼって中世の狂言の姿を探る手がかりにもなると思われるのである。右の廃曲となったものと、前の現存曲との中間に位置する幾つかの曲についても、問題は多い。ともかく『天正狂言本』全体を通して、一方では流動性を持ちながらも、次第に狂言が定着しようとする傾向がみられるとともに、一方では内容や演技にまだ洗練されない粗野な傾向のあることも示されていて、近世以降の、武家の式楽として整備される以前の、中世狂言の姿をそこからうかがうことが出来るのである。
   (日本古典文学大事典より)


《20060526の記事》