ちょっと悲しかったこと

 私は、ある公的な調査を仕事としてした。決められた家庭に赴いて、簡単な調査(アンケートのようなもの)を依頼するのだ。だから、訪問して、調査について説明して、協力をお願いして、10分ほど質問する。


 だいたいは協力してくれる。渋っても出来るだけ協力するようお願いする。結果の精度を少しでも上げるために。


 けれども、どうしてもしたくない、イヤだと言うのならそれは本人の自由だ。私はそれについて取り立てどうのこうの思わない。アンケートに答えたくないのなら、それはそれで仕方ない。まあ、依頼している僕は、ちょっと残念だけど。


 ある老夫婦を訪ねた。奥さんの方に用があったのだ。電気がついているのに呼び鈴に出てくれない。「あれ、おかしいな」

 しばらくして、夫が外からやってきた。私と鉢合わせになる。

 僕は尋ねた。「すいません、奥様はおられますか?」「アンケートをお願いしたいのですが。」

 彼はせききるように言った。「いるけど、他人と話さない」

 「たくさんの人からだまされた、裏切られた。そのせいで多くの財産を失った。息子も出て行った。」

 「だから、妻は他人と話さない、アンケートにも協力できない」

 「私たちは二人でひっそりと生きていく」

 「そういうわけだから、もうお引き取りを」


 外に出て、他人と会って、アンケートに協力しなくたって別にいいんだ。それは個人の自由だから。僕の干渉できる事じゃない。

 
 でも、、、でも、、、ホントにそれでいいの?
そんなに人から深く深く傷つけられたの?
だからといって、ホントに他人と話さなくていいの?
自分一人で閉じこもってそれで問題が解決するの?


 とっても悲しい気分になったよ。


《20060603の記事》