ドキュメント戦争広告代理店(情報操作とボスニア紛争)

ドキュメント戦争広告代理店(情報操作とボスニア紛争
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ドキュメント戦争広告代理店(情報操作とボスニア紛争
高木徹 2002 6 30 講談社


 ボスニア紛争時、セルビア共和国ボスニア・ヘルツェゴビナ共和国が繰り広げた激しい情報戦争をレポートする衝撃の書。


 ここでいう情報戦争というのはPR合戦のことである。アメリカを、もっと言うとアメリカ世論を動かすためにボスニア・ヘルツェゴビナ共和国はPR企業(あらゆるもののPRをなりわいとする営利団体)を雇い、独立を勝ち取った。一方、セルビア共和国はPR戦略の有効性に気づくのが遅れ、紛争に負けてしまった。


 誘導される正義、国際世論。セルビア人だけが世界の悪者にされ、モスリム人だけがかわいそうで同情すべき犠牲者に仕立てあげられたのはボスニア・ヘルツェゴビナ共和国が雇ったルーダー・フィン社の働きのたまものだったという。


 確かに、著者も示すように、明らかな情報の捏造がない限り、国際紛争をもビジネスにするPR企業を百パーセント悪いとはいえないだろう。彼らは嘘をついているわけではなく(嘘をつかないように彼らは非常に気をつけていた、嘘が暴露されれば会社の存続が危うくなるから)、ただ偏って情報を流しただけだ。人の行動をたとえ何であれ制限すれば政府による情報統制につながるだろう。


 しかし、私たちがマスコミから得る情報には公共性、平等性が求められる。それを巧みに崩し、一方の利益につながる情報だけを流すことに不快感を感じるのは当然である。倫理的に問題がなかったとはいえない。


 PR企業よりも問題だと思ったのはマスコミだ。PR企業からもたらされる情報を真に精査したならばこんな事にはならなかったはずだ。実際、紛争・戦争においてどちらかのみが悪いなんて事は絶対にない。冷静にボスニアの紛争が報道されれば、セルビア側だけが悪者扱いされることはなかっただろうし、PR企業が紛争を金づると見なすこともなかっただろう。マスコミのプライドを疑わざるをえない。


 とにかく、大事なのはこのような実態が起き、今もどこかで起きていること、そしてこれからも起こるということを私たち自身が理解すること。それから、私たちの接する情報がいかに人の手、人の意志を介して伝わっているかということを、きちんと認識することだろう。


 現代の戦争とはいかに味方の損害なく敵をやっつけるかということではなく、いかに敵を悪者にし、自分を正義のヒーローにするかなのだ。そして、それもまた、前者のように極めて熾烈かつ命がけで行われているのだ。


《20060225の記事》