坂の上で

空が青くて広い日に、坂の上で女性と会いました。



後ろから、「○○君!」と、かぼそい声が聞こえてきたのです。


振り向いて見ると、高校の同級生でした。


当時、授業中から休み時間まで、ずっとずっとひたすら新本を読みあさっていた僕に突然、「ぴゅーと吹くジャガー」という、つまらないギャグマンガを勧めてきた人です。


それは昼休みの教室。僕は廊下側の一番後ろの席に座り、壁に背もたれながら、教室の方を向いて、一人黙々と新書を読んでいました。


彼女は、僕の右(つまり一つ前の席ね)に座って、「ぴゅーと吹くジャガー」を読んでいました。


彼女と話つつ、イスに貼ってあった彼女の名前をこっそり見たことをよく覚えています。


そのうち彼女は、テストの、特に日本史の小さな良きライバルとなりました。


高校にいた数少ない宇宙人の一人です。宇宙人というのは、僕にとって最高のほめ言葉です。周りを気にせず新しいこと切り開ける人のことです。
高校生といえば何より他人の目を気にし、やりたいようにできないお年ごろ。そんな中、彼女は思うがままのことを思うがままに自由自在に言いまくってるように見えました。とどのつまり、そこはかとなく羨ましかったのです。


青くて広い空の下、立ち話の途中「○○君、私の名前、絶対覚えてないでしょう!?」と彼女は、大きい目をきゅっと細めて言いました。


僕は自信満々に、彼女の名前を呼びながら、それを否定しました。


彼女は小学校の先生を目指しているらしい。


僕は軽く驚くと同時に、黒色を基調にピンク色のアクセントのついたジャージを着た彼女が、悪ガキどもを追いかけている姿が、目に浮かびました。


廊下を走っちゃいけないんだけどなあ。


彼女もたくさんの人に支えられて、そしてたくさんの人を支えて、生きて行けますように!