黒檀

超おすすめ!!
黒檀
リシャルト カプシチンスキ著  工藤幸雄、阿部優子、武井摩利(翻訳) 河出書房新社 原著1998年

内容(「BOOK」データベースより)

ポーランドの新聞・雑誌・通信社の特派員として世界各地を駆けめぐり、数々の傑作ルポルタージュを上梓した著者による、小説よりも奇なるアフリカ取材の集大成。数十万人が山刀で切り刻まれた大虐殺の要因を解説する「ルワンダ講義」や、現代アフリカ史上最も有名な独裁者の素顔に迫った「アミン」、アフリカ最大の青空市場の人間模様を描いた「オニチャの大穴」ほか、1958年にはじめて寒冷の地ヨーロッパから炎熱の地へと降り立った著者が、以後40年にわたってアフリカ各地を訪れ、住民と交わした生きた言葉をもとに綴った全29篇の文学的コラージュ。待望の本邦初訳。

感想

 内容は上記のメモの通り。
 本書の付録『世界文学全集Ⅲ-02月報』(池澤夏樹著)にこういう文章がある。
「この本の中にはたくさんのアフリカがある。」
 まさにその通りだ。ここにはたくさんのアフリカ、一つのある大陸のたくさんの文化や様々な人々の生活がある。そしてさらに言えばこの本にはアフリカの、差別、貧困、過酷な自然、苛烈な熱帯気候、戦争紛争が濃密に詰め込まれている。ここにはアフリカの生きた悲劇がある。
 もちろんアフリカにあるのは、本書にあるのは、悲劇だけではない。幸せと喜び、豊かな自然、夕暮れの安寧もある。けれどもボクは、それを認めつつもやっぱり本書には、アフリカの生きた悲劇があると思うのだ。
 繰り返される紛争・戦争。絶えざる民衆対立。富を独占し、なお収奪し続ける独裁政治権力。整備されないインフラ。貧困の常態化。これが悲劇ではなくて何であろうというのか。
「アフリカで〈生きる〉とは、生き残ることと死に絶えることの間で脆く危ういバランスを見つけ出そうとする、絶えざる努力と試みを指す。」p255

 本書で重ねられるのは、筆者がアフリカで重ねた体験。事実と驚き。困難さ。環境と人間と自然とのめまぐるしくおだやかな輪廻。それはそれーーー個人の体験ーーーにすぎないかもしれないし、筆者はしいてまとめまくっているわけではない。しかし、本書にある事実と感情と鋭い視点の集積は、不思議とアフリカを最も雄弁に物語り、かつなお的確に捉えているよう気がする。

 別な生活を覗く。別な世界を知る。久しぶりに本を読む醍醐味が感じられた。興奮しながらページを繰る。読み終わることに怯えながら次のページを開く。そこには多くの人が知らない多様なアフリカが生きている。そう思わせる凄まじい本だ。
 アフリカの強烈な自然や文化をのぞいていると、日本の自然に目が向く。もし著者が、日本とそこに生きる人々について語るならば、確実に僕より多くのことに気づくだろう。そう思ってみると、風に揺れる木々の葉や、かすかににおう水蒸気、町の乏しい雑音も、全て愛おしい。

メモ、解説より(阿部優子著)

「時間や場所の異なるいくつものルポルタージュを並べて、そのなかから全体像を浮かび上がらせ、事実の奥にひそむ本質を鮮やかに描き出す手法」p381

「いわゆる「第三世界」に暮らす人々の声を取り上げることを、自らの使命と感じていた」p386

「本書は、それまでのアフリカ取材すべてを総括した著作」p391

「カプシチンスキのおおらかさ、目線の位置を相手と同じ高さに置く姿勢、そして先入観や表層に惑わされぬ敏感な観察眼を感じ取ってもらいたい」p386

アマゾンよりなるほどと思った感想を引用

特筆すべきは、著者の洞察力。ひとつの何気ないことからアフリカの本質を掘り出す力。
ごく普通の日常からクーデターまで。浮浪者から独裁者まで。サハラ砂漠の真ん中から大統領官邸まで。
様々な時と場所と人からアフリカをみつめ、その点を結ぶと、アフリカ大陸がみえてくる。
アフリカが暗黒大陸か希望の大陸か、考えさせられる良書です。
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