「河童のクゥと夏休み」に対する覚え書き

超・超おすすめアニメ!


これは絶対、見ざるを得ない!


途中から正座して見た。2回、3回と見るにつれて、新しい発見がいろいろある豊かな映画。


こんな作品と出会えたことを素直に感謝したい。


感想やれなんやれをちょこっと。


○本作品は見事にテーマを表現している


最初は、河童と少年の、心の交流を描くだけのよくある平凡なアニメの一つかと思った。
しかし、河童のクゥの存在が世間に知られると、物語は安定していた流れからどんどんずれ始める。


この作品は人間の暗部を描くことから逃げない。
むしろ最初に、人間と河童の心温まる牧歌的な交流を描くことで、作品のねらいを隠す。そして、視聴者が油断して筋肉の緊張がほぐれたところで、ズドンと見せたいことを描くのだ。


本作品にはいろいろなテーマが読み取れる。いじめ問題、環境問題、過熱取材、人間の汚い野次馬心、共生について、などなど。
なかでも、印象的なテーマは、人間の汚い野次馬心だ。


小学5年の康一は学校の帰り道、冬眠状態(仮)の河童のクゥを見つける。
クゥはしばらくすると元気になり、康一一家と楽しく暮らす。
マスコミや世間からクゥの存在を隠していた、康一一家。
しかしとうとう、マスコミに見つかり、康一一家は世間の注目を一身にあびることになる。
最初こそクゥを心配していたけれど、注目されることにどんどん興奮していく家族。「普通」の家族だからもってる小さな暗闇。


クゥが世間の見せ物なったとき、私たちは嫌というほどその状況を見せつけられる。
クゥが映るテレビを茶の間で、無責任に見る子供とお母さん。おじいちゃんとおばあちゃん。若いカップル。
クゥが康一一家とともにテレビに出演するシーンで、ときおり挟み込まれるその〈気持ち悪い〉映像は、「河童のクゥと夏休み」を今まさに見ている私たちそのものだ。


クゥは出演したテレビで、ミイラ化した自分の父の腕を見ることになる。クゥが怒りと恐怖でテレビスタジオから逃げ出したとき、一緒にいた一家の飼い犬のオッサンは「おい、なにやってんだ、早くあいつを助けてやれ!」と心の声で叫ぶ。その時家族は、呆然として立ちつくしていたのだ。クゥを第一に考える康一一家であっても、状況の変化についていけず、何が起きているのか冷静につかめなかったのだろう。
このシーンは圧巻だった。この作品は、人間を捉えることからとことん逃げない。


逃げ出す河童のクゥを写真におさめようと、執拗に食い下がる一般人とマスコミたち。視聴者は、クゥに感情移入することによって、彼らの、恐ろしい、そして無様な姿を延々と見せつけられるのだ。


これらが、説教臭くなく、押しつけがましくなく、視聴者の前で展開されることも特筆すべきことだろう。


○普通ということ、そのリアリティ
本作の大きな特徴は、河童という未確認生物が出てくるものの、それ以外はとことん普通であるということ。普通すぎて、気持ち悪いほどのリアリティを生む。
学校での子供の関係や家族の様子・会話。町の風景。どこにでもある風景をそのまま、切り取ってきたかのよう。
とにかくリアルなのだ。
良い光景でも悪い光景でも、この作品が描く日常は、どこにでもある普通の一場面。


本作品の、執拗なまでのリアルさは、物語に重みをぐっと添加する。


○躍動的な構図、美しい自然・町、水の表現
康一やクゥの動きは躍動的で、見ていて気持ちが良い。


舞台はどこにでもあるような町。自然と人工が密接するところ。あるいは混在するところ。あるいは混濁するところ。
夏のすがすがしい季節。田舎らしい美しい風景から田んぼ、造成されたばかりのような宅地まで、丁寧に切り取る。美しく描かれた町からは、町に対する創り手の愛情すら感じる。
美しい背景とそこで息づく生命からは、不思議な懐かしさを感じる。


水の表現が美しい。主として水に、コンピューターグラフィックスを使っている。
水以外の背景や人物は、コンピューターグラフィックスと分かるような描かれ方をしていないので、水だけがちょっとした違和感をもって画面の中で映える。


○過剰に語らない、語らせない
登場人物たちは、ペチャクチャとバカみたいに語りすぎない。視聴者は、登場人物たちの会話の間や、表情、目線で、気持・思いを読む。
ex)母が、遠野に旅行に行く息子を見送るシーン。
ex)クゥが、「ここ百年、河童は見てない」と座敷童からつげられるシーン。


○愛すべきキャラクターたち
優しくも強い心をもつ康一。少し頼りないけれど、童心のある父。心配性だど、状況の変化に動じない母。無垢でプライドが高い妹。平凡だけれど、愛すべき家族。
芯をもったヒロイン、菊池紗代子。


○二回目を見ると、飼い犬のオッサンが、物語当初から、クゥと家族を気にかけていることが分かる。


《2008/10/30の記事を転載》