認知考古学とは何か

認知考古学とは何か
松本直子,時津裕子,中園聡 編 2003 青木書店

内容、出版者ウェブサイトより

認知考古学とは、人の価値観・世界観・感情・意思決定などに焦点を当てながら考古資料を分析・解読し、歴史を復元する新しい考古学である。本書は、その理論と方法をケーススタディをまじえながら、わかりやすく解説した。

メモ

・「認知考古学とは、学際的視点から人の認知に焦点をあてることによって、過去の文化の内容や、その変化に対する理解を深めることを目的とする研究方針のこと」p4

奈良県大阪府京都府の竪穴系埋葬施設の副葬品の配置場所の変化を、古墳時代前、中、後にわけて分析した。

前期・・・副葬品は頭部周辺に集中。

(頭部に腕輪や剣、鏡などが配置されている。副葬品と頭部の間に着装というつながりはない。副葬品と身体は非現実性によって結ばれている。)

(埋葬者は、集団に対し現実的規範を超えたかたちで卓越した存在であるという認知の現れか。)

中期・・・腕部への配置が増加し、頭部周辺の割合が減少。

(副葬品は着装状態を想起させる配置が増加。副葬品と身体が現実的関係によって結ばれている例が出てきている。)

(前期に比べ埋葬者は、現実的な権力を有していたか。)

後期・・・中期の流れをうけつつ、さらに配置場所は拡散。特に腰部への配置が増加。p131

・考古学経験者は土器をみる際、土器の輪郭をはじめ、形態的特徴を表す重要なポイントをバランスよく注視している。p168

・日本の考古学は土器の形態情報を非常に重視するが、色彩情報については比較的淡泊。p177
また土器を、時間的前後関係を念頭に捉えがち。空間的変異や機能的変異への関心が薄い。
さらには「豊穣祈願を意味する」といったように、論理の階梯をはしょって考えるくせがある。p208

感想

・考古学資料から古代人の認知に迫ろうという本である。研究内容の特性上、推論を重ねていくしかないだろうが、それぞれ妥当な推論を積みあげていたと思う。
おもしろいのは、後半3文の1で考古学者自身の認知傾向を分析している点だ。考古学資料だけでなく、考古学者自身も研究の俎上にあげてしまう。確かに、考古学研究は「機器によるよりも感覚や思考に追うところが大きい」p158。その点、その感覚や思考はそもそもどのようなものなのか明らかにすることは重要だと思う。
自らの認知に焦点をあてようというのは、刺激的な視点である。

・本書にはさまざまな研究が紹介されているが、どれも研究対象が狭い。たとえば1つの古墳やごく特定地域の古墳を研究し、結論を出そうとしている。それはそれでいいのかもしれない。しかしそれでは日本全体の流れを論証したといえないし、地域的特性があるのかないのかさえ見えてこない。
その点、不満を感じた。