中国グローバル化の深層 「未完の大国」が世界を変える

中国グローバル化の深層 「未完の大国」が世界を変える
デイビッド・シャンボー 加藤祐子 訳 原著2013 朝日新聞出版

内容、背表紙より

中国は近年、アフリカでの鉱物採掘、欧州との貿易、中東の油田、ラテンアメリカでのアグリビジネス、東アジアに工場…世界各地にその足跡をつけている。経済活動が活発な一方、軍事力を近代化・増強し、文化的影響を世界に広めようともしている。そんな中国に対し、国際社会はグローバル・ガバナンスにおいて応分の役割や責任を期待する。長年のチャイナ・ウォッチャーとして定評のある著者は、中国は「未完の大国」と明言する。一般に思われているほど重要ではないし、世界への影響力もそれほど大きくない―と。
何が中国を突き動かすのか? 中国が本物の覇権国家になる日は来るのか?膨大な資料をもとに、外交、経済、軍事、文化、グローバル・ガバナンスなどを多角的・多面的に検証し、中国の実情と世界の未来を探る。

内容

・急速に発展し、これまで以上に国際社会に大きな影響を及ぼしている中国について、中国自身の自国に対する認知や外交、グローバルガバナンス、経済、文化、安全保障の六つの側面から総合的に検討することで、その影響力と今後の進展について論じている。

結論は次のようになろう。
「中国は本当の意味でのグローバル・パワーを持っていない (中略) 中国はグローバルなアクターだが、本当の意味でのグローバルなパワー(大国)には(まだ)なっていないというのが、私の主張だ。どう違うかというと、本当のパワー(大国)は、ほかの国や出来事に影響を及ぼすものだ。単に世界的な存在感があるというだけで、特定の地域や分野において物事の展開に影響を与えることがない国は、世界的な大国とはいえない。」p22

「中国は物事を動かしていないし、問題解決に積極的に貢献してもいない。むしろ中国はリスクを嫌い、きわめて自己中心的だ。中国の官僚は外交の中身よりも象徴性を重視することが多く、中国外交の主な目的は国内経済の発展促進や、中国共産党のイメージと寿命を守ることだ。そのせいで中国は国際外交の場で本来の実力をまったく発揮していないというのが私の結論だ。中国政府は自国の力にふさわしい国際的な責任を応分に担おうとしていないし、世界的なリーダーになろうともしていない。」p396 「崇高な国際的目標を原動力とした外交政策ではない。」p404

「中国がソフトパワーを持っていないというのは、大事な発見だ。中国は他国の人々をひきつける磁石ではないのだ。中国の政治システムや社会システムを手本にしようという外国はないし、文化に普遍性はなく、中国の経済的な経験は(見事ではあるが)移転可能ではない。それでも中国政府は国の国際的イメージを向上させようと、多元的で多国間の取り組みに莫大な資源を注ぎ込んでいる。しかし今のところ、その努力はあまり報われていない。」p397

・本書には中国の経済的な影響力や軍事技術の向上について詳述しているのだが、その発展の急速度には驚かされた。著者のいうように中国には本当の意味でのグローバルパワーはないのかもしれない。しかし経済力と軍事力はますます高まり、他国に対する影響力は増すだろう。本書でもくり返されているのは狭隘な愛国心の高さだ。力をもった中国共産党が種々の要因から、他国にそのパワーを行使しないとも限らない。歴史をみれば文化大革命をはじめ、自身の国益を大きく損ねるような驚愕の行いをしてきたし、インドやベトナムと国境紛争を重ねてきた。日本や南シナ海に対しても威嚇行動をくり返している。
本書は、中国は真の意味でのグルーバルパワーはない、とその影響力を冷静に分析するが、近隣諸国にとっては勢いづく愛国的で「法治」が未成熟な大国の出現は恐怖以外の何ものでもない。本書を読んでいてその思いを新たにさせられた。

メモ

・「中国は自国の歴史的アイデンティティーにきわめて強い自信と誇りを抱いている。しかしその一方で歴史的経験のせいで一部の外国人に対してきわめて敏感で強い不安を抱いているのだ。これが中国外交の陰と陽、強い自信と強い不安だ。」p86

・「アクターたちの行動が積み重なり、過去になく複雑な外交政策決定プロセスができあがっている。」p99
(自国の外交政策について多くの議論があり、国内でまとまっているわけではない)

・(グローバルガバナンスに対する中国のどっちつかずな態度や不信感の裏にある中国の政治文化に刻まれた三つの傾向
 1.国際環境は弱肉強食だ、という世界観。ゼロサムゲームと考え、他人に無関心で集団責任を負わない。公共財の考えを軽視する。
 2.「取引」重視の思考。自分の利益、費用対効果を重んじる。
 3.国家はなにがしかの方法で金や物を集めて、社会に公共財を提供するものであるという意識。税金の見返りをじっくり検討しはじめている。)p206

・「中国に関わり続けて、引き続き国際社会の制度、規則、法律、規範に取り込むしか、ほかに方法はない。中国の「平和的台頭」を調整するには、それが最善の手段だ。」p402

・「世界が心配しなくてはならないのは実は強硬で挑発的な中国ではない。心配するべきはむしろ、不安で、混乱していて、苛立ち、怒り、不満顔で、わがままで、喧嘩腰で、孤立した大国のほうだと私は思う。中国は何にも増して、豊かで、安全で、尊敬される国になりたいのだ。自分たちの文化圏で、誰からも干渉されずにいたいのだ。(中略)しかし国は豊かになっても、国の安全と国際社会の尊敬がついてこない。」p405