意識は傍観者である 脳の知られざる営み

意識は傍観者である 脳の知られざる営み
デイヴィッド・イーグルマン 大田直子 訳 原著2011 早川書房

内容、カバー折口より

人は通例、「自分」イコール「自分の意識」と思っている。あなたもそうだろう。では、あなたが日ごろ意識的に行なっていることは、脳の活動のどれほどを占めるかご存じだろうか。それは実は、氷山の一角でしかない。最新の脳科学の成果によれば、むしろあなたの意識は自分の脳について最も無知な、「傍観者」と言っていい存在なのである。あなたは何かを見ているつもりでも、それは現実そのままではない。あなたの時間感覚も、現実とは微妙にズレている……意識が動作を命じたとき、その動作はすでに行なわれているのだ! 巧妙な設定の実験によって確かめられている、これらのことが事実なら、結果が原因の先にあることになり、ものごとの因果関係が逆転してしまわないか。さらには、ヒトが自分の行動を意識でコントロールできないなら、その行動の責任は誰が、どう取るべきなのか……最新脳科学が明かす、心と脳の予想に反したあり方を、平易かつみずみずしく活写。ニューヨークタイムズほか多くのベストセラーリストをにぎわせた科学解説書が、満を持して登場。

感想

多くの研究結果をもとに、いかに私たちの知覚や行動の多くが意識にのぼらず、逆に無意識下の働きに左右されているかを論じた本。「意識」だと考えているものが自分の意のままになるわけではなく、無意識や脳の生理学的状態に影響されている、というわけである。

読後の感想としてはラマチャンドランの『脳のなかの幽霊』(http://d.hatena.ne.jp/skycommu/20090517/1242553389)とほとんど同じだった。

神経生理学をあつかったこの手の本としては、「裁き」について言及している点が印象的だった。私たちの行動が無意識に大きな影響を受けているとして、どこまで個人に対し「非難に値する」ことを問えるのか。著者は疑問をなげかけ、「裁き」の主眼を犯罪の再発防止におくよう主張し、そして神経生理学の研究結果を「裁き」の内容にフィードバックすることを説いている。無意識の働きや、おのおのの脳の生理的状況を分析することによって、再犯の可能性をより正確に導き出したり、再犯防止の処方を考えるのに役立てうる、というのである。

メモ

・盲点は月の17個分のサイズがある。大きい。

・自分と同じ誕生日だと設定された人物を好ましく評価する傾向がみられた。しかも無意識に。

・ある研究によると2月2日に生まれた人物は、数字の「2」に関係がある名前の都市に引っ越す可能性が異常に高いことが分かった。誕生日は偶然だが、居住地の選択を無意識に左右する影響力をもちうる。

・人の脳の特徴は、さまざまな種類の課題を学びうる柔軟性。例えば意識的に説明できないほどの極小の違いから無意識的に判断する、ヒヨコ雌雄鑑別士や第二次世界大戦のイギリスの空対監視員といったものなど。

・人間は解決すべき課題を見つけると、その課題を効率的に成し遂げるよう無意識に行動できるまで回線をつなぎ直す。
その段階に達するメリットは、速い(早い)スピードと高いエネルギー効率。

・意識はこれまでの予想と異なる状況になったときに急遽呼び出され、その変化に対応すべく活動する。

・意識の役割はその柔軟性の高さ。さまざまな課題に対応することができる。

・意識は、対立する無意識のシステムを状況に応じて仲裁する役割がある。

・動物にどの程度意識があるのか、という疑問がある。おそらく動物の意識度は、その知的柔軟性に対応しているのではないだろうか。