ナイチンゲール伝 図説看護覚え書とともに

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ナイチンゲール伝 図説看護覚え書とともに
茨木保 2014 医学書

内容、出版者ウェブサイトより

悩み闘い病み、 引きこもりながら、彼女が看護をひらいた
近代看護の創始者フローレンス・ナイチンゲール。クリミアの過酷な戦地で看護団を率い、帰国後は政府を動かし医療・福祉の広範な改革を主導した彼女は、みずから病み人として半世
紀在宅に引きこもって暮らした孤高の人であった——。ベストセラー 『まんが 医学の歴史』 の著者が向き合った、ナイチンゲールその生涯の物語。月刊 『看護教育』 で好評を博した連
載内容を改稿、さらに図説看護覚え書を描き下ろして収載した。

感想

ナイチンゲールは看護師として有名だが、功績はそれにとどまらず多岐にわたる。
・看護の世界に統計をもちこみ効果をあげる。また権力者にもわかりやすいように、データの視覚化にとりくむなどした。
・当時、看護師の地位は低かったが、看護師に対する専門的な教育の必要性を説き、看護学校を創設。看護師の能力と地位向上に大きく貢献。
・病院における看護体制の合理化、衛生環境の改善を強力におし進めた。

当時、イギリスでは「病院とは汚くて恐ろしい場所で、看護師は無能でだらしない大酒飲みがする下品な仕事」というイメージがあったという。そんななか、「神の声」を聞いたナイチンゲールは家族の強力な反対を押し切り、看護の道を選んだ。まじめで完璧主義である彼女は、病院や看護の世界に合理的な看護システム(リフトやナースコールの設置など)を導入し、清潔な環境を徹底し、また統計に基づいて種々の改革を成した。多くの反対、抵抗、掟を、信念と完璧な仕事ぶりと根回しで打ち破ってきた。まさにその姿は「孤高」といえよう。
だがそれと同時に、彼女はその強烈なキャラクターによって多くの人を巻き込みとりこにしている。
本書によると、そうして巻き込まれた人々の多くはむちゃくちゃ仕事をして(させられて?)体調を崩してしまった人物も多かったようで、それだけナイチンゲールの信念は強烈だったし、魅力的な人物だったんだろうな、と思ったしだい。

ナイチンゲールは後半年、病人として自室に引きこもりまる。そんななかでも、激烈な使命感に目覚めた彼女は、改革案を練り、権力者に手紙をおくりまくり、また自分の子飼いを実務者におしあげ、彼らを激しく叱咤激励し、医療や福祉の改革を主導し続けた。
 このマンガは、これまでよく描かれてきたナイチンゲールの「博愛と献身」という側面だけではなく、そのエネルギッシュな性格、病的なまでに完璧主義の性格。そして家族との不仲や自己の存在意義への不審からくる精神的圧迫により「正気が保てなくなって」いく様子。彼女は、白昼夢をみたり、「神の声」を聞くのである。そして「その運命と折り合いをつけ、飼いならし、見事にそれを昇華」していった歩み。現場にいたときはもちろん病床についてからも長きにわたって改革を成した「戦士」としての側面を描いている。
 「天使とは、美しい花をまき散らすのではなく、苦悩する者のために戦う者だ」
 これはナイチンゲールの言葉で有名なものである。まさにナイチンゲールの強烈な生き様にふさわしい言葉だ。もっとも、誰もがナイチンゲールのように生きられるわけではない。彼女はある意味、普通からはつきぬけた人物だろう。誰もがナイチンゲールのように苛烈に生きられるわけではない。

 私は彼女の強烈な生き様にひかれてしまう。自分の「生まれ」や「家族」、「精神的な不安定さ」という運命と真っ正面から向きあい、ついに「苦悩する者のために戦う」という自分の生きる道をみつけた。そしてその道をどうどうと、また嵐のように駈けぬけた。そんなナイチンゲールから勇気をもらうことのできた本だった。

○マンガのなかでナイチンゲールにこう言わせている。
「「治せないものは我慢しなければならない」−−
これはあらゆる格言のうち、看護師にとって最悪で最も危険な言葉です

看護師が「我慢」とか「あきらめ」と言うのは、「不注意」や「無関心」を別の言葉で置き換えたものです」