重金属のはなし 鉄、水銀、レアメタル

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重金属のはなし 鉄、水銀、レアメタル
渡邉 泉 2012 中央公論社

内容、カバー折口より

重金属と人類とのつきあいは古くて新しい。IT産業にはレアメタルが欠かせず、私たちの体にも釘一本分の鉄が含まれている。一方で、調味料として鉛が利用されたローマ時代には中毒が多発し、水銀やカドミウムの汚染は今や全世界を覆っている。ビッグバンに始まる重金属の歴史、その特徴、利用法を解説。さらに、メリットとリスクを同時にもたらす重金属と人間の関係を水俣病などの事例に学び、つきあい方を再考する。

感想

finalvent氏の書評(http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2012/11/--d919.html)に触発されて読んだ。

○現代の豊かな生活を根幹として支えている重金属と、それと人との関わりについて書いている本。
勉強になる本だった。現代産業の一面をマクロに俯瞰する上でも、人類や生命の歴史の一面を知る上でも。

○日本で起きた、鉱物資源採取に伴う公害についても多くのページを割いている。水俣病イタイイタイ病、土呂久で起きた複合汚染、足尾鉱毒事件、六価クロム汚染事件など。
それらを読んでいくと、利益の前ではいかに人間が冷酷になれるのか思い知らされる。組織は、生存や利益のために力強く歯車を回す。止むことなく歯車を回す。そのためなら、弱者を吐き捨てることなど厭わないのだ。そうして巨大な歯車のなかで、多くの社会的弱者がすりつぶされてきた。

そのなかで彼らを救ったのは言論だった。自由な言論だった。その大切さを痛感する。


また公害の歴史は、公害に立ち向かった人々の記録でもある。公害に苦しむ人々に直面し、彼らを救おうと様々な利害、住民間の対立のなかで葛藤したヒーローたちの生き様が印象的だった。

メモ

○生物は強烈な毒になる一方で、巨大なエネルギーともなる酸素を利用することで発展してきた。その解毒のために利用したのが銅などの重金属。したがって人間をはじめ生物の多くには重金属が含まれている。

○「産業の骨格」   → 鉄
 「産業の血管」   → 銅、アルミニウム
 「産業のビタミン」 → レアメタル
 「産業の血液」   → 石油

レアメタルについて
重金属は、ベースとなる金属に少量の金属を組み合わせることで、その特性を大きく変えることができる。=合金
さびに強くしたり、高温や低温、高圧への耐性を高めたり、物理的な強度を高めたり、磁力を加味したり。

その合金の材料のなかで、代替が難しく、また採取が困難だったり、量が少ないもの、偏在しているものがレアメタルと呼ばれる。ハイテク技術になくてはならないもの。

○日本の水銀汚染の状況は低いとはいえない。ある調査では人口の40%前後が国際的な基準を超えている
 ・日本の水銀の規制は魚介類だけ
 ・かつ、水銀を高濃度で含む魚介類で規制から除外されているものがある
 ・魚介類であっても加工品は除外

○日本はカドミウムの汚染も危惧されている
 ・カドミウムの土壌汚染があると、カドミウムは米に蓄積されてしまう

○公害に対しては「予防原則」の姿勢であたることが大切。
「深刻な、あるいは不可逆的な被害のおそれがある場合には、完全な科学的確実性の欠如が、環境悪化を防止するための費用対効果の大きい対策を延期する理由として使われてはならない」(リオ宣言 原則15)p257

この考えには各国で反対意見もある。しかし、公害の深刻な被害、後手にまわってきた対応をみると、公害対策で重要な考えである。

○日本は環境対策における先進国でも模範国でもない。消極的な姿勢がほとんど。また環境対策をとったとしてもその背後に外圧があることが多い。

○現代は、加速度的に新しい人工化合物が次々と生まれている。ただ、それらの長期にわたる毒性の有無等についてはよくわかっていない。