失敗の本質 日本軍の組織論的研究

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失敗の本質 日本軍の組織論的研究
戸部 良一,寺本 義也,鎌田 伸一,杉之尾 孝生,村井 友秀,野中 郁次郎 初版1984 中央公論社

内容、背表紙より

大東亜戦争における諸作戦の失敗を、組織としての日本軍の失敗ととらえ直し、これを現代の組織一般にとっての教訓あるいは反面教師として活用することをねらいとした本書は、学際的な共同作業による、戦史初の社会科学的分析。

感想

先の大東亜戦争で日本軍は、初戦においては圧倒的な勝利をおさめるも、その後アメリカ軍に敗北を重ね、最終的には完膚無きまでにたたきつぶされた。本書はその敗北の原因を、指導者に向けて掘り下げるのではなく、大日本帝国陸軍、そして海軍という「組織」に向け、徹頭徹尾、「組織」の問題として分析することで、高い普遍性を獲得している。
「本書のねらいは、(中略)大東亜戦争における諸作戦の失敗を、組織としての日本軍の失敗ととらえ直し、これを現代の組織にとっての教訓、あるいは反面教師として活用すること」p23

本書の指摘によると、大日本帝国陸海軍は、「環境の変化に合わせて自らの戦略や組織を主体的に変革することができ」p348ず、役目を果たさないまま滅亡した。
この指摘、環境変化に「組織として」いかに対応していくか、自分を変えていくか、という問題は、国家の存亡をかけた先の第二次世界大戦と深刻度は比べえないが、急変する環境に対応しなければならない〈あらゆる組織〉にとって、重要な課題だろう。

これまで、本書のように旧日本軍の敗因を分析した本を読んでいると、大東亜戦争敗北という「結果」からみた後知恵ではないか、思うこともままあった。
しかし本書は個々の作戦で終わる問題ではなく、組織、組織システムの問題点に焦点を当てており、より納得がいった。日本は負けるべくして負けたのだ、と。

また、「日本軍の環境適応」という項目では、古い戦略(白兵銃剣主義や艦隊決戦主義)に向けて、どのように旧日本軍が準備してきたか、ということが述べられていて、おもしろい視点だな、と思った。旧日本軍としては入念に準備をして古い戦略に対応しており、結局はそれが仇になったわけだが、もう一面の見方としては準備を怠ったわけではないというわけだ。

メモ

大日本帝国陸軍、海軍が次第に初戦の優位性を失い、ついには連合軍に敗北した理由。
一、 戦略目的があいまい。ミッドウェー海戦は相反する目標が二つあり、戦術に支障をきたした。
一、 作戦目的がしっかり共有されておらず、目的に応じた有機的で柔軟な軍事行動ができていない。
一、 長期的な見通しなし。短期決戦志向。
一、 兵力の逐次投入。
一、 防御、情報、兵站を軽視。
一、 非合理的、情緒的な空気が支配。論理的な議論ができる制度と風土がなかった。
一、 戦略を古いものに固執(陸軍→白兵銃剣主義、海軍→艦隊決戦主義)。状況の変化、兵器の進化をふまえ戦略を発展させず。
一、 古いやり方はよく学習しそれに高度に適応しすぎた。古いやり方に徹底的に合わせ特殊化しすぎた。それゆえか、理想と現実とのギャップがあっても自己否定的な学習は成されず。
一、 アンバランスな技術体系。軍用機など一部で非常な高性能をほこったが、無線やレダーをはじめ平均的には旧式。
一、 一品生産的。アメリカのような標準化、量産化があまりできなかった。
一、 陸海空の戦力の統合は進まず。
一、 気持ちでどうにかなる、という空気の蔓延。根拠なく自信過剰になり敵を侮る。
一、 失敗の学習を組織的に行うリーダーシップもシステムも欠如。
一、 組織メンバー間の人間関係や各指揮官のプライドが過度に配慮されたため、組織目標とその達成手段の合理的・体系的な選択がなされず、あるいは意志決定が遅れた。
一、 人事昇進システムは能力主義ではなく、基本、年功序列
一、 将兵は結果よりもやる気(気概)が出世に重んじられた(陸軍)。そのため大失態をやらかしてもそれに応じた責任を問われなかった。