死は醜い

ニワトリの解体をみた。


両足を縛り,逆さまに吊す。
首に包丁を入れ,頸動脈を切断する。
しばらく放置して血を抜く。
濃い,赤い絵の具のような血が,鮮緑の雑草に滴り落ちる。
よく溶かしていない水性絵の具のようだ。


ときに暴れるが,やがて死ぬ。


足をもって,70度前後のお湯につける。
羽が抜けやすくなるように。
羽の奥までぬくもるよう,よくお湯の中で動かす。


鈍い銀色の筒状の機械に入れる。
機械を止め,ニワトリを捕りだしてみると,羽が抜け落ち,ハダカになった状態だった。


消毒するため,全体をバーナーで軽く炙る。


太ももと胴体の間に包丁を入れ,皮をさく。
包丁で,足と胴体をつなぐスジを切り,その後は両者を手でもぎ離す。


以上のような要領で,ニワトリの各部位をシステマティックに剥がしていく。


骨から身をとる。
細かく刻む。
塩胡椒をかけながら炒めて,食べる。


年老いたニワトリだからか,はたまた炒めすぎか,身は固く,美味とは言い難かった。


ニワトリは生きているときが最も美しい。
生きて,自分の足で歩き,自分の目で,世界をみているときが最も美しい。


死は美しくない。
緊張して緊密したバランスを崩す死は美しくない。
鮮赤の円環を断つ死は美しくない。
一つの世界を消滅させてしまう死は美しくない。


私たちが死すべき運命に囚われているのは,他者の生を奪って生きざるを得ないからだろう。
そう,私たちが死ぬのは,美しい生を奪取し,醜い死を生産した代償なのである。