いざ、さらば

私は、君の冥福を祈りに来たのではない。
なぜなら私は、死後の一切を信じていないからだ。
死して尚、別世界で生きることができるという安易な考えを認めないからだ。
だから私は、死後の幸福を祈りはしない。


君という人格は、もうこの世には存在しないのだ。消滅してしまったのだ。


君は突然亡くなった。
あまりにも突然亡くなった。


見たまえ。
多くの人が茫然自失しているじゃないか。
聞きたまえ。
共通の友人が人知れず呻いているじゃないか。


友よ。


私は感謝を伝えに来た。


君といた日々は本当に幸せだった。
君は多くのことを僕に教えてくれた。
君は多くの世界を僕に見せてくれた。
僕という人格は、君がいなくては成立していない。
私は君の、世界を良くしようという熱い思い、そしてその鋭敏なる行動力が羨ましかった。


友よ。


私は君の課題を受け継ごう。


君が、君という人格が見つけた課題。
小さな課題から大きな課題まである。
もちろん私にはその全てを受け継ぐことはできない。
向き不向きがあるし、私には私の人格と、私の愛すべき人たちがいるからだ。
だが、友よ。
私は君の課題のいくつかを受け継ごう。
君が世界に対して見いだした課題を、いくつか受け継ごう。


私が受け継がなかった課題は、君の別の友人が受け継ぐだろう。


友よ。
夜が明ければ、また日輪が昇る。
友よ。
さあ、私たちの故郷に帰ろう。
友よ。
未来永劫、星々は私たちの頭上を回り続けるだろうか。
友よ。
我が去る時はきたれり。
友よ。
いざ、さらば。