戯曲の読み方(戯曲を深く読みこむために)

おすすめ!
戯曲の読み方(戯曲を深く読みこむために)
デヴィッド・ボール 常田景子訳 2003 ブロンズ新社


【「BOOK」データベースより】
芝居を成功させるためには、戯曲の構造やポイントを本当に理解する必要がある。一体どう読めば、ムードだけでなく戯曲を理解できるのか?劇作家だけでなく、演出、美術など演劇に関わるすべての人々におくる必読の書。


【雑感】
非常におもしろかった!
戯曲の読み方というより、戯曲の楽しみ方といえるだろう。
あるいは、どういう戯曲が無理なく感情移入できて面白いかということの分析そのものではないか。
具体例を用いながら解説しているから分かりやすい。


ただ、多様な題材やテーマを扱う現代の戯曲に、本書は全て当てはまらないだろう。当てはまらないからダメな戯曲化かといわれれば、決してそんなことはない。
本書に当てはまるのは、特に娯楽的要素をおさえている作品だと思う。でも、娯楽的要素をおさえるということは、とても大事なことだ。


【本書のまとめ】
本書は各章の要約が付されている。
僕の勉強もかねて、転記しておく。


1 何が、その出来事を引き起こしたか?
起きることすべてが、出来事である。ある出来事が、別の出来事を引き起こしたり、それが起きる条件をつくりだしたりすれば、その二つの出来事が組みになって一つのアクションとなる。アクションは、戯曲の土台となるものだ。


2 次に何が起きたか?
アクション(行動)は二つの出来事から成り立っている。引き金とその結果である。それぞれの結果が、次のアクションの引き金となる。したがって、アクションは、ドミノ倒しのように次々と続いていく。逐次的分析とは、戯曲を最初から最後まで、ドミノ倒しの駒を一つひとつ見ていくように分析することである。


3 逆の方向から
アクションの逐次的な分析は、芝居の終わりから始めに向かって逆にさかのぼった時に、非常に有効である。そうすることによって、最も確実に、全ての出来事がなぜ起きたのかを理解することができる。


4 平衡状態と侵入物
平衡状態とは、戯曲の舞台となる世界に、芝居が始まる前からすでに存在していたステイタス・クォ(現状)である。侵入物は、その現状をかき乱し、芝居の中に葛藤や進展を生み出す力を解き放つ。それらの力の葛藤がなくなった時、芝居の中に新たな平衡状態が生じ、芝居は終わる。


5 障害、葛藤
登場人物の欲求が、何らかの邪魔(何らかの障害)によって、はばまれる。登場人物は、自分の欲求に対する障害が取り除かれるように、他の登場人物を操作しようとして何かを言う。台詞を理解するためには、その台詞を言う登場人物が、何を欲しているか、その台詞によって、どのように自分の欲求に対する障害を取り除こうとしているかを、理解しなければならない。


6 無知な幸いなり(あるいは、誰もが『ハムレット』に惑うわけ)
ドラマの緊張感の核は、観客に情報を知らせずにおくことによって保たれる場合が多い。早まって情報を明らかにしてしまって、緊張感を壊してはいけない。


7 劇的なこと
劇的な事柄は、観客の注目を集め、観客の芝居に引きこむ。劇作家は、自分の一番大切な題材を戯曲の一番大切な瞬間に盛りこみ、それによって観客の注意を喚起する。その戯曲の劇的な要素を特定することは、劇作家が大切だと考えていることを知る手がかりとなる。


8 提示
提示とは、観客に、戯曲の展開を理解するために必要な情報を知らせることである。それには二種類ある。一つは、登場人物全員が知っている情報(ここはデンマーク、というようなこと)。もう一つは、登場人物の全員が知っているわけではない情報。このような情報の提示の最もうまい方法は、一人の登場人物が、その情報を使って、別の登場人物にアクションを起こさせるというものである。


9 推進力 先が知りたいという渇望
芝居に緊張感を持たせるためには、観客に次に何が起きるか知りたいという欲求を、抱かせなくてはならない。その欲求が強ければ強いほど、観客は芝居により深くより積極的に、のめりこんでいく。劇作家は、芝居を前に進めるために、さまざまなテクニックを使い、次に何が起きるのか知りたいという観客の欲求をかき立てる。そうしたテクニックは、劇作家が重要だと考えている事柄を見つける鍵ともなる。


10 姿なき人々(登場人物)
登場人物の性格は、まず、その人物の行動によって明らかになる。だが、最高の戯曲でさえ、そこに書かれているのはただの骨格である。なぜなら、観客が見る登場人物の多くが、俳優にかかっているからだ。さらに、登場人物は、戯曲のもっとも主観的な要素である。なぜなら、ある登場人物を、私たちはそれぞれ、自分の性格によって違ったふうに受けとめるからだ。最も良い読み方は、アクションによって明らかにされる登場人物の骨格を発見することである。


11 イメージ
イメージとは、私たちが知っている何かを使って、私たちが知らない何かについて語ることである。「マーヴィンは、ラクダのような歩き方をする」。私たちが知らないこと(マーヴィンの歩き方)が、私たちの知っていること(ラクダの歩き方)によって描写されている。イメージは、定義し限定するというよりは、記憶や感情を呼び起こし、表現をひろげるものである。イメージは、観客それぞれから、まったく同じ連想を引きだすことはない。したがって、特に個人に向けられた伝達法となる。


12 テーマ
テーマは、戯曲のアクションによって具体化される抽象的な概念である。テーマは、意味ではない。戯曲の中で取りあげられる話題である。テーマは結果である。台本の展開の中から、おのずと浮かびあがってくるものだ。だから、戯曲のテーマを検証するのは、その戯曲の土台となっている要素を知り尽くしてからでよい。


《20081005の記事》