決着! 恐竜絶滅論争
決着! 恐竜絶滅論争
後藤和久 2011 岩波書店
内容、背表紙より
恐竜はなぜ絶滅したのか。専門家にとってはもはや決着済みといえる絶滅の原因をめぐって、いまだに新説が出されてはマスコミを賑わす。これを憂えた著者らは、有名な科学雑誌に論争の余地なしとする決定的な論文を投稿。世界をアッと言わせた。なぜ決着済みといえるのか。異説のどこが間違いなのか。とことん解説する。
感想
本書は、恐竜絶滅の引き金となったのは小惑星の衝突であるとし、その根拠を丁寧に積みあげている。そしてより特徴的なのは、メディアが少数意見をもてはやす構造に危惧を投げかけている点だ。ここでいう少数意見とは、恐竜は劇的に滅んだのではなく、既に数を減らしていた、あるいは絶滅のきっかけは火山噴火である、といった説である。これらは学会でもごく少数意見にもかかわらず、「「定説を覆す」研究のほうが読者に興味をもたれるという事情もあ」p9るため、メディアが繰り返し大きく取り上げてしまいまるで両論が研究者のあいだで拮抗しているかの様な印象を与えている、というのである。
このような危惧から本書は出発しており、ここから恐竜絶滅をめぐる論争を紹介している点が特徴的だ。
メモ
○恐竜の生き残りに鳥類がある。かれらも科のレベルでいえば75%が絶滅。両生類や恐竜以外の爬虫類と比べても多い。
○白亜期末の大絶滅の特徴とその原因
・光合成を行う植物を基底とする食物連鎖上の生物に大打撃。腐食したものから、それを食べる生物へとつながる食物連鎖(腐食連鎖)のうえにいる生物(哺乳類など)は比較的絶滅をまぬがれている。
→隕石衝突によりチリや火災にともなうスス、大地から蒸発した硫黄がエアロゾルとなり、数ヶ月から数年にわたって太陽光をさえぎったから。実際に、大量絶滅後は光合成植物が存在しなくなり菌類が繁殖。
・カメやワニといった淡水に住む爬虫類のなかには絶滅をまぬがれているものも。また淡水魚や両生類も明らかに絶滅率低し。
→淡水環境は腐食連鎖が中心だから。また酸性雨もラルナイトという鉱物が酸を中和。
・アメリカ大陸ほど絶滅の被害が大きい。その反対側のニュージーランドは比較すると小さい。
→小惑星が落ちたのはメキシコ湾沖(チチュルブクレーター)。
・酸に弱い石灰質の殻をもった石灰質ナノプランクトンや浮遊性有孔虫が大規模に絶滅。一方、有機物やケイ酸塩など酸に解けない殻をもった生物や酸性雨の影響がおよばない深い海底にいた生物の被害は比較的小さかった。
→大地から大量に蒸発した硫黄により酸性雨が降ったから。
・小惑星衝突により生じた津波は最大300メートル。衝突のエネルギーにより地球表面の温度は260度、その影響は数分から数時間続いた。
○衝突説は分野を超えたあらゆる証拠を提示している。衝突説を否定するのならば、関連するあらゆる分野の証拠について定量的に反論できなければならない。いまだこれは成されていない。
○今後は衝突と環境変動の規模に関する研究と、どれほどの環境負荷で生物は絶滅するのかという研究が、大量絶滅の真相を解くうえでポイント。
○衝突説への反論がこれまで重ねられてきたからこそ、大量絶滅の研究がより深く追求された。衝突説を補強する研究結果も明らかになった。
読んですぐに身につく「反論力」養成ノート
読んですぐに身につく「反論力」養成ノート
香西秀信 2009 亜紀書房
内容、出版者ウェブサイトより
代表的な議論の型を知り、例題をいくつも解くうちにめきめきと反論する力が付くこと請け合い。これでもう、“泣き寝入り”“だんまり”はしなくなる!
感想
香西先生特有のウェットに富んだ文章で読んでるだけでおもしろい。文章を追っていておもわずニヤニヤしてしまう。
またテンポよくいい切る文が多く、著者が問題を設定するなかでは、それは確かに正しい。うじうじと言い訳をしないこの舌鋒の鋭さも楽しいのだ。
内容はこれまでの著書に重なる部分が多く、しかしそれは思考力を高めるうえで重要なことなので、復習のつもりで読んだ。【類似からの議論】、【定義からの議論】、【因果関係からの議論】を中心に紹介し、その議論の構造や反論のポイントを論じている。
メモ
・議論が生まれるのは意見が対立するから。そしてそうして意見が対立しうるのはとどのつまり、どちらの案にも分があり、結果がどちらでもよいから。
・議論に勝った意見が「正しい意見」。そして議論の技術を身につけているから議論に勝つ。つまり「議論に強いからこそ、常に正しく考える」p17
・力をもてばもつほど議論から得られるものは減る。なぜなら議論などしなくても自分の意見が通るから。だからほんとうの強者は議論する必要がない。
そのような議論の必要ない強者になるためには議論の技術を身につけ人生を自ら切り開く必要がある。
・意見は、既存のそれとは対立する別の意見への反論という性質をもっている。ゆえに「反論」は議論の本質。反論の技術の習得が、議論の技術を身につけるポイント。
・議論の訓練をするときは、「類似からの議論」の使い方から学習するとよい。なぜなら・・・
1、日常生活でよく使うから。
2、議論構造が形式的に明示しやすく、根拠が判然としていて反論方法も一義的に定まるから。
3、類似からの議論を考えるにはものごとの類似点と差違点を見極めなければならないが、それは人間の根幹であり、類似からの議論をあつかえばそのよい訓練になるから。
・人間が説得的と感じる論証方法は限られている。よってその少数の議論の型をあらかじめ習得しておけばよい。
・「思考力」ととらえるから何をすればよいのか分からなくなる。「力」ではなく「量」と考える。ものの考え方の量、つまり議論の形式を増やすことが重要。
大学生・社会人のための言語技術トレーニング
大学生・社会人のための言語技術トレーニング
三森ゆりか 2013 大修館書店
内容(「BOOK」データベースより)
グローバル社会で求められるのは世界基準の“ことば力”。対話:面接などにも役立つ、論理的な受け答えの方法。物語・要約:物語の構造を理解することで、要約や速読の力。説明:分かりやすく情報を伝達することができ、話に説得力が出る。報告:レポートや報告書などで、事実や進捗状況を的確に伝える力。記録:話し合いの経過や結果をまとめ報告する議事録が的確に書ける。クリティカル・リーディング:文章を論理的に分析し、解釈できる読解力。作文技術:論理的に構成されたパラグラフで、分かりやすい文章を書く力がつく。
感想
「言語技術」とは何か、どのようなトレーニングで向上させればよいのか、論じている。僕は、言語技術ないし思考力をたかめるために「反論」に的をしぼって指導するタイプだ。しかし本書は反論についてはあまりふれず、思考を深めていくさまざまな観点(なぜ?どのように? 等)を整理したり、テクストに書かれていることをもとに考えていくテクスト分析、小論文の型を紹介している。
本書は、言語技術の重要性やそれをトレーニングするヒントが述べられており、よりよい市民社会をつくっていくうえで重要なものだと思う。またこの本がいかせる教育系の仕事に就いていることをうれしく思った。どの仕事でも本書の内容をいかすことで社会に還元できると思うけれど、僕は特にどストレートに関わる職に就いているので。それでよりよい市民社会を担う土台を少しでも強固にできたら幸せなことだ。
メモ
・要約の技術の1つに「因果関係法」がある。「最終的に提示された結果から遡ってその根本原因を探」p66り、それを次々と遡っていく。
・空間的に提示された情報を説明するときは、大きい枠の情報から小さい枠の情報(細部の情報)へと並べるとよい。
・テクストに書かれていることに基づいて分析し、批判や批評を加えるのがクリティカルリーディング。それをトレーニングする方法の1つに「絵の分析」がある。観察力の向上もみこめる。
①何が描いてあるかに着目して、ざっくりとどのような絵か表現。
②絵の細部に着目して分解。絵を根拠に分析
設定 場所、季節、天気、時間など
人物 性別、年齢、職業、出身、階級、容姿、服装、趣味、興味、嗜好、何をしているか、何を考えているか、何を話しているか、何を聞いているか、何を観ているか、何を読んでいるか、何を感じているかなど
表現 構成、色、明暗、描き方など
象徴 象徴性のあるものは?、タイトルの意味は?
人類を変えた素晴らしき10の材料 その内なる宇宙を探険する
人類を変えた素晴らしき10の材料 その内なる宇宙を探険する
マーク・ミーオドヴニク 松井信彦 訳 2015 インターシフト
内容、出版者ウェブサイトより
すぐそこにある材料の、内なる驚異の宇宙へ
・ガラスが透明なのはなぜ?
・スプーンには味がないわけ
・世界一軽いモノって?
・電子ペーパーのインクの秘密
・映画も音楽もプラスチックのおかげ
・チョコレートの美味しさの元
・・・
私たちの身近にある材料の驚くべき秘密を明かす、超話題作。
世界16ヵ国で刊行の大ベストセラー!
感想
身近にある素材、「鋼鉄」、「紙」、「コンクリート」、「チョコレート」、「泡」、「プラスチック」、「ガラス」、「グラファイト」、「磁器」、「インプラント」をとりあげ、その誕生から利用の歴史、素材としての特性、それを生み出す原子構造などを解説している。
本書の特徴は単に重要な素材について述べているにとどまず、著者自身の素材との関わりを出発点にしていることだろう。そうして独自の経験と視点をもとに、素材に純粋に驚き、素材をいつくしむ著者の気持ちが華をそえているのである。
メモ
・素材は非常に重要な存在。人類が発明し発展させていった素材が、社会をかえ、人類を人類たらしめている。
・鉄筋コンクリートについて
コンクリートは安く大きな基礎を作れるが、引っぱられる力に弱い(ひびが入ってしまう)。しかしそこにねばり強さをもった鋼鉄の輪を埋めこむことによって弱点が解消された(コンクリと鋼鉄は膨張率が同じだったので温度変化があってもひびが生じることは少ない)。それが鉄筋コンクリート。
鉄筋コンクリートは頑丈で火や風や水に強く、そのうえダントツに安い素材。保守もほとんど要らない
・ガラス以外のもの(透明でないもの)に光が当たると、そのエネルギーによって電子が動き、光はそのまま吸収される。
一方ガラスが透明なのは、可視光線にガラスの電子を移動させるだけのエネルギーがないから。ただ原子内部を通り抜ける際に影響を受け光は曲がる。これが屈折。
・中国人と西洋人を比べると、材料技術に関する知識は中国人のほうが凌駕していた。紙や木材、陶磁器、金属の材料技術に関する知識はローマ帝国崩壊後1000年にわたって中華世界のほうが優位だった。しかしガラスの技術については西洋のほうが優れていた。西洋世界でガラスはワイングラスやステンドグラスで利用された。このガラスに対する関心や技術が望遠鏡や顕微鏡の発明にいたり、科学革命につながった、と考えることもできる。
・素材は原子組成だけでその特性が決まるわけではない。並び方を変えるだけで性質が劇的に変わる場合もある。ダイヤモンドとグラファイトのように。
・素材は人間の欲望を複雑に反映したもの。
認知考古学とは何か
認知考古学とは何か
松本直子,時津裕子,中園聡 編 2003 青木書店
内容、出版者ウェブサイトより
認知考古学とは、人の価値観・世界観・感情・意思決定などに焦点を当てながら考古資料を分析・解読し、歴史を復元する新しい考古学である。本書は、その理論と方法をケーススタディをまじえながら、わかりやすく解説した。
メモ
・「認知考古学とは、学際的視点から人の認知に焦点をあてることによって、過去の文化の内容や、その変化に対する理解を深めることを目的とする研究方針のこと」p4
・奈良県、大阪府、京都府の竪穴系埋葬施設の副葬品の配置場所の変化を、古墳時代前、中、後にわけて分析した。
前期・・・副葬品は頭部周辺に集中。
↓
(頭部に腕輪や剣、鏡などが配置されている。副葬品と頭部の間に着装というつながりはない。副葬品と身体は非現実性によって結ばれている。)
↓
(埋葬者は、集団に対し現実的規範を超えたかたちで卓越した存在であるという認知の現れか。)
中期・・・腕部への配置が増加し、頭部周辺の割合が減少。
↓
(副葬品は着装状態を想起させる配置が増加。副葬品と身体が現実的関係によって結ばれている例が出てきている。)
↓
(前期に比べ埋葬者は、現実的な権力を有していたか。)
後期・・・中期の流れをうけつつ、さらに配置場所は拡散。特に腰部への配置が増加。p131
・考古学経験者は土器をみる際、土器の輪郭をはじめ、形態的特徴を表す重要なポイントをバランスよく注視している。p168
・日本の考古学は土器の形態情報を非常に重視するが、色彩情報については比較的淡泊。p177
また土器を、時間的前後関係を念頭に捉えがち。空間的変異や機能的変異への関心が薄い。
さらには「豊穣祈願を意味する」といったように、論理の階梯をはしょって考えるくせがある。p208
感想
・考古学資料から古代人の認知に迫ろうという本である。研究内容の特性上、推論を重ねていくしかないだろうが、それぞれ妥当な推論を積みあげていたと思う。
おもしろいのは、後半3文の1で考古学者自身の認知傾向を分析している点だ。考古学資料だけでなく、考古学者自身も研究の俎上にあげてしまう。確かに、考古学研究は「機器によるよりも感覚や思考に追うところが大きい」p158。その点、その感覚や思考はそもそもどのようなものなのか明らかにすることは重要だと思う。
自らの認知に焦点をあてようというのは、刺激的な視点である。
・本書にはさまざまな研究が紹介されているが、どれも研究対象が狭い。たとえば1つの古墳やごく特定地域の古墳を研究し、結論を出そうとしている。それはそれでいいのかもしれない。しかしそれでは日本全体の流れを論証したといえないし、地域的特性があるのかないのかさえ見えてこない。
その点、不満を感じた。
(「〈外部〉の文節ー記紀の神話の論理学」、上野千鶴子)より
・「記紀の言説は、誰がこのクニの統治者であるべきか、についての長い系譜誌」
・「結婚は親族関係をうち立て、再生産を可能にする回路だが、日本の王権神話は、他の多くのポリネシア首長国の王権神話と同じく、ヨソモノがやってきて土地の女と通婚することによって主権をうち立てる、という「外来王」説話を共有している。」
「記紀のテクストでは、カミはクニの民にとってヨソモノであり、クニの統治者は、カミという〈外部〉とつながる出自を持つことによってはじめて、支配の正当性を保障されている。」
・「神武から開化まで九代の天皇は、次々に土地の女との創設婚をくり返す」
「この創設婚が確立したとたん、統治者の親族構造上の地位は変質をとげる。つまり彼は、土地の民の「姉妹の夫」つまり異族から「姉妹の息子」、つまり(母系上の)同族へと、〈内部〉化をとげるのである。
開化までの神話的な諸代の天皇のあとに、再びハツクニシラス天皇として登場する崇神天皇の時代に、はじめて皇女が伊勢斎宮に奉仕したとの記載が見える。崇神は、アマテラスの伊勢遷座をひきおこした天皇でもあり、斎宮制は、この時に始まったと見ることができる。
つまり創設婚が終了し、ヤマト諸氏族との間に婚姻連合が完成したと同時に、天皇は、〈内部〉に回収されつつあった自己の〈外部〉性を、別な形で再び確保しなければならなかった。それが斎宮制であったと考えられる。皇女不婚のルールは、禁忌された姉妹を、一般交換のリンクにはめこむことを禁止し、交叉イトコ婚による一方的な女のフローに、ブラックホールのような集結点を作る。その不婚の皇女を吸収していく象徴的な〈外部〉が、伊勢」
「不婚の皇女が天皇制にとって意味を持つとしたら、可能な解釈は、ヒメヒコ制の射程の中で、皇女がカミという象徴的な絶対至高者と「神妻」として結ばれることによって、天皇の〈外部〉への回路の媒介者、つまり司祭となること」
「アマテラスと、伊勢という聖なる空間的〈外部〉にある斎宮とは、同一化されている」
「伊勢斎宮は小アマテラスなのであり、〈外部〉性を天皇に保証する供給源」
・「七世紀の日本の王権は、皇族内婚を確立することで、〈外部〉の〈内部〉への依存を断ち切った」
「婚姻ゲームから完全に自立した王権は、もはや〈内部〉と互酬化する必要を一切持たない、権力の〈中心〉ーーそこへと女と財、土地のすべての〈贈与〉が吸収されて二度と還流することのない、ブラックホールーーとなる。」
(『戦闘機』、白石光、2013)より
「戦闘機こそが、どこの国でも、いつの時代にも、常に航空技術の最先端に君臨する存在」
(現在、ブレンデッド・ウィング・ボディという概念が普及。本来厚みに差のある胴体と翼が、なだらかな曲線でつながるようにデザインされているもの。)
(第二次世界大戦中期以降、エンジン出力の増大によってペイルロードが増加したこともあり、戦闘機に対地、対艦能力をもたせたものが増えている(マルチロール)。)